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アンプの自作

各種の定電圧回路について1(VCCS、誤差増幅、シャントレギュレータ)

投稿日:2015年9月29日 更新日:

各種の定電圧回路(安定化電源)について理解できたことを説明しておこうと思う。
たいていの定電圧回路は、
1.VCCS(シリーズ電源)、
2.オペアンプ差動回路等の誤差増幅によるサーボ回路、
3.シャントレギュレータの組み合わせ、であるように思う。

1.VCCS(ボルテージ・コントロール・カレント・ソース)、シリーズ電源
「トランジスタ技術」2014年8月の特集p51~「エミッタの気持ちになれ」参照。)
以前の記事「氏家式マランツ#7アンプ、12AX7の定電流点火2」で少々触れたが、
このトラ技の文献によれば、ベース電圧を変化させると、エミッタ側に(ベース電圧-0.65v)の一定電圧を供給できる。
vccs.jpg
この図で、V2は、エミッタコレクタ間の電圧、V1は、ベース電圧であり、エミッタ側に抵抗を付けている。
かつ、この文献によると、この電圧は、ベース電圧に比例するということらしい。
待てよ、ベース電圧とエミッタ電流の関係は、非線形ではなかったか?
そこで、上記LTSPICEで検討すると、vccs2.jpg
となる。
ファイルは、ここに置いておきます。VCCS.asc

一定のエミッタ抵抗R1(値がXR3)を固定したときのV2を0.1~10Vまで0.1V刻みで変化させる。
さらにこのエミッタ抵抗の値XR3を0.001(≒0)~100Ωまで、10Ω刻みで変化させる。
エミッタ抵抗の値がほぼ0の場合には、非線形の性格が現れるが(緑の曲がった線)、
エミッタ抵抗が10Ω以上では、0.65Vから線形になり、ベース電圧に比例して、電流が流れる。

これは、上記文献の解説通りとなった。

というわけで、エミッタ抵抗を付けたうえで、ベース電圧を一定電圧とすると、
以下の特徴が生じる。
①(ベース電圧-約0.65V)が、エミッタ側に現れる。
これは、どのトランジスタもほぼ同じ。ただし、0.65Vは温度によって変化する。
②コレクタエミッタ間には、そのトランジスタの能力に応じた大電流を流せる。
さらに、エミッタ側の電圧の特性は、ベース電圧の特性に準じる。
周波数ごとの制動特性、リップル減衰率も、ベース電圧の特性に準じる。

ということで、トランジスタが横向きに配置されている場合には、
その機能は、上記①~③の特性があるVCCS安定化電源ではないか
と見当をつける。
vccs3.jpg
ちなみに、大電流動作のアプリケーションについては、しばしばこのようなトランジスタが配置されているので、②の理解のため参考になる(後述3.の大電流オペレーション参照)。

そのベース電圧の基準電圧回路としては、例えば、
(あ)ツェナーダイオード(正負逆向きに接続されている)またはその直列、
(い)通常のダイオードの順方向接続(による定電圧特性の利用)、
(う)LED(上記(い)の一種)
(え)jFETや定電流ダイオードのような定電流回路+抵抗、
(お)シャントレギュレータ、
(か)基準電圧回路(低電圧)の電圧値と、出力電圧を分圧した電圧値との誤差をオペアンプ等により増幅して(誤差増幅回路)、分圧値を基準電圧回路に追従させるサーボ回路、
(き)CR等によるパッシブフィルタ、などがある。

(あ)については以下の図。vccs4.jpg
ツェナーダイオードは、逆向けに接続すると、
ブレークダウン現象が生じて、電圧を一定にしてくれる機能がある。
安価で、高電圧のものもあるが、
ブレークすると電流が流れて、電圧が下がり、
電圧が下がるとブレークが生じなくなり、電流が流れなくなり、
ということを断続的に繰り返すものだから、
パルスノイズが大きいという欠点が指摘されている。

(お)については、以下の図。vccs5.jpg
シャントレギュレータについては、後ほど説明する。
(か)の基準電圧については、2.で後ほど説明する。

(き)については、例えば以下の図vccs6.jpg
<図の訂正:トランジスタは、耐圧の観点、増幅率の観点から選択する必要があります。>
この図では、300vの直流電圧に0.5V60hzのリップルを加えた電圧源V7から、2段フィルタで、VBという基準電圧を作り出している。通常のパッシブRCフィルタで、500kΩなどという抵抗を直列につなぎ100mAなどを流すと、確かに、VBにおいて70dBほどのリップル減衰を生じるという点では高性能であるが、ものすごい電圧降下が生じて、使い物にならない。ところが、この回路では、そのフィルタの電圧は、直接アースには流れず、VBからエミッタ抵抗を通じて、0.1mAなど小電流が流れるだけであるから、電圧降下は少ない。
したがって、上記②③のとおり、
大電流を流しつつ、この70dBのリップル減衰の恩恵を受けることが出来る(過去記事「マニアなら知っておきたいオーディオ雑誌のお宝記事1 簡易定インピーダンスアッテネータ ノイズ対策」で紹介した、⑤「TR(トランジスタ)によるリプル除去回路」(「ラジオ技術」1999/1月)泉沢 義雄」参照)。
この(き)などの回路によれば、
確かにトランジスタの、温度による電流ドリフトを受けるが、
2.のように基準電圧に追従する回路ではなくて、素直にパッシブフィルタの性質を踏襲し、
無駄なノイズが少なく、聞きやすいのではないかというイメージを抱いています。
聞いてみないとわからないですが。
例えてみるなら、サーボガンガンのCDプレーヤやLPプレーヤでなくて、
サーボの影響を排したベルトドライブのプレーヤということです。

2.オペアンプ差動回路等の誤差増幅によるサーボ回路、
定電圧電源で、(あ)オペアンプや、(い)基準電圧回路(小電圧)、(う)出力側の分圧抵抗が登場する回路は、たいていこれです。LM317などで、この(う)分圧抵抗があるのも、これかもしれません。

基準電圧源の電圧値Vrefと、出力電圧を分圧した電圧値とを比較して、
(A)少ない場合には、トランジスタのベース電圧を調整して電流をドバッと供給したり(ベース電圧を上げる)、
(B)電圧が多い場合には、負荷側ではない脇道に、出力電圧⇔アース間にトランジスタを設けて、電流をドバッと捨てたりして(負荷側に流れる電流量を減らす)、このような2通りの方法で、基準電圧値Vrefと、出力電圧を分圧した電圧値が同じになるよう、サーボ制御するものです。
例えば、(A)のタイプの例としては、以下の図(「トランジスタ回路の実用設計」CQ出版社p91、95 渡辺明禎著参照)。
servo.jpg
ここで、R13,R14は、分圧抵抗で、その中央は出力電圧VoutのR14/(R14+R13)倍の電圧を出力する。Vrefは、高精度な基準電圧源。これらの電圧を比較し、その差に比例する電圧を出力するのは、オペアンプU3(LT100AはLTSPICEにあったので載せただけ。これに限る必要はない。)である。Q7は、NPNトランジスタ(種類は何でもよい。もちろん耐圧、耐電流の制約があるが。)で、ベース電圧(対エミッタ)が上がると、電流をドバッと流す。オペアンプの増幅率は極めて高いので、これにより、分圧した電圧は、リファレンス電圧とほぼ等しくなる。

分圧抵抗があるのは、結局、
高精度低ノイズの基準電圧源は、たいてい2.5Vなどの小電圧であり、
これと比較するには、分圧抵抗により1/10等にするなどして、比較する必要があるからです。
基準電圧源としては、(a)バンドキャップリファレンス、(b)埋め込みツェナー、(c)XFET、(d)ツェナーなどがあります。
(「トランジスタ技術2011年4月号p165「高精度基準電源IC」」参照)。
(a)は最も一般的に使われており、温度特性の逆特性を利用したもので、シャントレギュレータにも内部的に使われています(「ねがてぃぶろぐ」さんの「LTspiceでTL431」参照。ちなみにここではシャントレギュレータの内部構造をきちんと表したLTspiceモデルが公表されています)。(a)としては、シャントレギュレータTL431などを使うこともできます。
(d)はノイズが大きく、(b)、(c)は、それぞれ(d)、(a)に対し、進化したものとなります。
これらはディスクリートで組むのは大変(というか無理)であるし、ノイズも却って大きくなるので、ICを使うのが便利であり、
マルツさんで、「基準電圧IC」という項目を選択すると、豊富に品ぞろえがあるみたいです。
その中でスペック上で調べたところ、「ADR420」というのが、最もノイズが少ないようです(1.75μvPP at 0.1~10hz)。ちなみに、tl431では、入力段に引き直した等価ノイズは、シートの図によれば、8μvPP at 0.1~10hzぐらいあります。

3.シャントレギュレータ(tl431等)
これは、以下のような回路で、上記2の(B)のタイプにあたるとも言えます。
shunt.jpg
R19がシャント抵抗です。通常は電圧降下を少なくするため、値の小さいものを選びます。
R16が負荷抵抗で電圧を供給すべき対象のモデルであって、
その高圧側が出力電圧として制御すべき対象です。
R21の電圧は、例えば2.45Vに制御されるので、
出力電圧は、2.45V ×(R21+R20)/R21となります。
これは、上記2.の分圧抵抗にあたり、
内部的には、R21の両端電圧と、VREF(2.45V)とを比較して、
その誤差を内部回路のオペアンプで増幅し、
電圧が高い場合には、Tl431(内部的にはオペアンプにつながるトランジスタ)に電流を逃がして(捨てて)、電圧を下げます(下図参照)。
内部的には、以下の通り、2.と同じような回路となっています。
shunt2.jpg
(出典:新日本無線株式会社の「Shunt Regulator Application Manual」)
この回路のメリットは、負荷抵抗とは別に、常時に予備電流を流しているので
負荷が電流を必要とするときは、電源の供給速度に関わらず、即時に電流を供給できる点にあります。
そういう点で、非常に理想的な電源と言えます。
シャントとは、脇道に流すというような意味ですね。
デメリットとしては、(あ)常に最大電流を流すので、省エネではない
(い)通常の回路では、大電流に対応できない。(う)通常の回路では、高電圧に対応できない。
などがあります。
(い)については、tl431の最大電流として、
せいぜい150mA、500~700mW程度しか流せないので、その問題が生じます。
上記1.で説明したとおり、大電流オペレーションというのがあり、
許容電流が大きいトランジスタを用い、大電流を流すことが出来ます(下図、出典は上記Manual)。
shunt_high_current.jpg
また、シャントレギュレータを、オペアンプ、許容電流が大きいトランジスタ、上記基準電圧ICで構成すれば、このような構成をしなくてもよいと思われます。
(う)については、高圧側に高抵抗をつなげば、tl431(内部のトランジスタ)や、上記大電流オペレーションのトランジスタQ1にかかる電圧を下げることが出来るはずです。

ちなみに、1.で述べた、ベース電圧の安定化の方法として、シャントレギュレータを使う方法は、VBを安定化しているにすぎないから、
あくまで、1.で述べたvccs(シリーズ電源)の一種であり、
負荷が電流を必要とするときは、電源の供給速度に関わらず、即時に電流を供給できるというメリットは、なくなってしまいます。つまり、負荷が電流をさらに要求するときは、電流スイッチとしてのトランジスタ内部の抵抗値が下がるにすぎず、その供給速度は、電源の供給能力に従うことになるわけです。また、1.の大本の電源は、3.に比べて、電流変動の要求が大きくなると予想されます。

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